一般社団法人ビジネスカラー検定協会は、「LGBTQ+と色彩の関わりについてのアンケート」と題し、10代から50代の827名に自由記入式で調査を実施しました。今回の調査結果を当協会の色彩心理の解説とメッセージを添えて報告いたします。
【アンケート調査の背景】
今回「LGBTQ+」と色彩についてアンケート調査実施したきっかけは、2020年8月に放送されたNHKのドキュメンタリー番組「カラフルファミリー」を見たことです。その番組の中で、トランスジェンダーの男性がカラーについて触れていたシーンがありました。彼は杉山文野さんといって日本女子大学付属高等学校出身で今はパパとして生活しています。
*杉山文野さんはLGBTGの自らの苦悩と克服を題材にした著書を執筆しております。
番組では、彼のお子さんが保育園の入園式に出席した後、彼と彼のパートナーの女性との間でこんな会話が交わされます。
パパ「やっぱりこの歳から、女の子はピンク、男の子は青みたいなのが、当たり前のように、誰も疑いようもなくそういう感じだった。」
ママ「例えば何?私全然分かんなかったけど」
パパ「今日もらったお人形もそうだし、呼ばれる時も女の子は何とか“ちゃん”、男の子は何とか“くん”で、来てる服もその通り。今日みんな赤ちゃんいっぱい並んでたじゃない?女の子はやっぱりみんなピンクっぽいもの来ているし、男の子はみんなブルーっぽいもの着てるし。」
ママ「でも正直のところそれしか売ってないからね~」
この会話を聞いて、女の子はピンク、男の子は青という決め付けは、一般的であるのか?それによって苦しい思いや悲しい思いをしている人はいないのか?何か当協会で提示していけるものはないのか?という思いに駆られました。
上記のパートナーの女性が「バトンを渡された」という表現をしていました。彼女はトランスジェンダーではないのですが、彼と共に人生を歩むことで彼の悩みを共有し一緒に考えていく(当事者からシェアされる)ことを「バトンを渡された」と表現したのだと解釈しました。
当協会のスローガンは「カラーで日本を元気にする!Enjoy your color!」というもので、色彩心理を皆さんに知ってもらって、少しでも日常に彩りが加わり明るい社会にしたいという思いがあります。
今回の性別によるカラーのアンケート調査よって、ダイバーシティの時代に少しでも多くの方が「LGBTQ+」の方々を考えるきっかけになれば、微力ではありますが小さな「バトンを受け取って渡していく」ことに繋がるのではないかと考えました。
≪参考≫
LGBTQ+の象徴でもあるレインボーフラッグは当初下記の8色が始まりで、それぞれの色にメッセージがありました。これは当協会で伝えている色彩心理(色の意味といえるもの)と通じるものがあります。(その後、印刷技術の面からピンクとターコイズを抜いた6色になっています。)
ピンク=性
レッド=生命
オレンジ=癒し
イエロー=太陽
グリーン=自然
ターコイズ=芸術
ネイビー=調和
パープル=精神
【アンケート調査結果】
◇Q1 自分の性的アイデンティティを表すイメージは何色ですか?
●男性はブルー、女性はピンクがぞれぞれ1位
男女別、世代別の集計を行った結果、男性はどの世代でもブルーが1位、女性はどの世代でもピンクが1位となった。
男性の10代、40代、50代は2位の色に倍以上の差をつけてブルーがダントツであったが、20代、30代は2位のレッドが1位のブルーに僅差であった。
一方女性の場合は、2位の色に倍以上の差をつけてピンクを選んだ世代は10代、30代、50代であり、20代、40代は2位3位のレッド、ブルー(2代はパープルも2位)と僅差で、様々な色を選んでいる傾向がある。また10代20代30代の2位にパープルが入っており、40代50代の傾向とは違っている。
《参考:「男女別:自分の性的アイデンティティを表すと思う色」2020.9調査》
◇Q.2 女の子・男の子と聞いてイメージする色はなんですか?
●男の子をイメージする色はブルーが7割で1位、女の子をイメージする色はピンクが 6割強で1位
Q.2では自分の性的アイデンティティではなく、もっと客観的な女の子、男の子のイメージと色を問う設問を設けた。今回の結果はQ.1と比較して色が固定化されており、男の子をイメージする色はブルー、女の子をイメージする色はピンクと答えた方が圧倒的に多く、赤が続いた。自分の性的アイデンティティに関する質問では多様な色が選択されたが、客観的なイメージとなると性別と色とが固定観念として根付いている傾向が考えられる。一方でこの質問の回答の中には、そもそもこの設問に対して、「性別と色を結び付けたり、男女で分けて考えるのは差別的ではないか」といった意見もあった。このような意見が一般的になれば、色による性別の固定観念が払拭される時代が来るのかもしれない。
日常の性別に分けた色遣いとしてはトイレのマークが思い浮かぶことと思う。ある実験では、トイレのマークの色を男性は赤、女性を青にしたところ、多くが男女を間違えて入ってしまったという結果がある。性別を表す色分けを便宜上行ったものであっても、すでに社会生活に色が固定化されているものを変えてしまうことで混乱を招く可能性もある。性別に関して多様な色のイメージを持つことがどのような終着点を迎えるのか、今後も引き続き注目していきたい。
《参考:「男の子と聞いてイメージする色」2020.9調査》
《参考:「女の子と聞いてイメージする色」2020.9調査》
◇Q.3 幼少期に着たい色と違う色の服を着せられたことはありますか?
●約3割が「はい」と回答
この質問を投げかけたのは、今回のアンケートのきっかけとなったトランスジェンダーの杉山さんのように、性別と色の固定観念を幼少期から感じ、自分の着たい色ではない色の服を着せられたり選んだことがある人がいるのではないかと考えたからだ。結果は「はい」を選択した男性は22.5%で、女性は31.2%であった。
詳しいエピソードについてもアンケートを取ったところ、下記のように様々な経験談が寄せられた。
「黒か青がよかったが家族が女は赤と言い赤を買わされた。(10代女性)」
「青ばかり着せられた(50代女性)」
「水色が欲しかったのに、親がピンクを買ってきた。(40代女性)」
「プリキュアのパジャマが着たいと思っていた。(10代男性)」
「娘に女の子らしい色の服を着せようとした。(50代男性)」
特に40代50代の女性が自分の着たい服の色と違ったというパーセンテージが高いという点に関して興味深い。
これは親世代の性別による色の固定という固定観念という時代背景によるものなのか、子どもたちの選択の自由や発想力の制限であったのか、更にはストレスなどに繋がっていないのか、今後まだまだ詳しい調査が必要であろう。
《参考:「幼少期に着たい色と違う色の服を着せられたことはあるか?」2020.9調査》
◇Q.4 LGBTQ+の象徴とされているレインボーフラッグを知っていますか?レインボーである意味はなんだと思いますか?
●約3割がレインボーフラッグを知っているが、50代の認知が低い?
≪参考≫でも簡単にご紹介したように、1970年代にアメリカ・サンフランシスコで登場したレインボーフラッグは、LGBTQ+に関する社会運動でよくシンボルとして使われ、LGBTQ+の方々の尊厳を表す象徴的な役割を果たしている。最近ではこのレインボーフラッグをモチーフにしたデザインを取り入れる企業も増えており、例えばGAPでは2014年から続いている「東京レインボープライド」というイベントの開催時期には、レインボーロゴを使用している。
このレインボーフラッグについて知っているかという質問をしたところ、約3割の方が「はい」と回答した。年代別で見ると、20代までの世代は31.7%が知っていると回答しているが、50代ではそのように回答した方は16.4%となっている。
これは多様性の中で育ってきた世代と、それ以前の世代のギャップを感じる数値ともとれるのではないだろうか。
《参考:「レインボーフラッグを知っていますか?」2020.9調査》
●約半数がレインボーフラッグの意味を「多様性」と回答
レインボーフラッグにはどんな意味が込められているかという質問をしたところ、「十人十色(40代男性)」「どんなアイデンティティも社会で尊重されるべき(20代女性)」など、様々な表現を使った回答が寄せられ、49.8%が多様性というキーワードに結びつくものであった。そのほかには「幸せ」「差別がない社会」という回答も見られた。
一方で48.1%の方は「分からない」と回答しており、それはレインボーフラッグに対する興味とも受け取ることが出来るかもしれない。
年代別にみると、10代20代の認知度に比べ50代の認知度がほぼ半数である点にも注目したい。多様性を学校教育の中で受けてきた世代と、現代の多様性をこれから受け入れていく世代とのギャップを埋めていくことも今後の課題と考えられるかもしれない。
それは今後LGBTQ+の存在や活動が広がりを見せていく中で「レインボー」という色がどのような役割を果たしていくのか注目していきたいと思った。
《参考:「レインボーフラッグにはどんな意味が込められていると思いますか?」2020.9調査》
◇ まとめ
●どの年代も1つの色に偏らず様々な色を回答
Q.1の男女を合わせて年代別に集計した結果、レッド・ピンクがどの世代でも約10%、ブルーが15%近くとこの3色を選択する人は他の色に比べて多かった。しかし、全体としてはグリーンやブラック、オレンジなど他にも様々な色に回答が分散しており、予想より遥かにばらつきがでた。色の多様性がどの年代にも共通しており、ダイバーシティな社会が認識され、否応なしに多様な文化や人と触れ合う機会が多くなってきたことが感じられる。
色彩心理の点で伝えるとすれば、「赤」は自分を律し、鼓舞する色であり、強い生命力を感じる色である。「ピンク」は身近な者への愛がテーマの色であり、自分を愛し周囲の人を愛し、赤の独立した色に白が混色され、「心」が生きていくために必要な色と言える。「青」は身近な者への愛から、人類愛の規模に広がる「愛」の色。キリスト教では絵画でマリア様のローブの色に使われ象徴される色である。
今回のアンケートで「イエロー」や「グリーン」が上位に出てこなかった点も興味深い。
「グリーン」はバランスの色と言われ、どこにも偏らない立場をとる色である。また「イエロー」は、有彩色では光に一番近い色と言われ、アイデンティティを示すにはつかみどころのない色なのかもしれない。
過去の時代においては現代よりも「女らしさ」や「男らしさ」を要求される時代であった。それをイメージする色も未だ意識の中に残っている。変容の時代において果たしてこの色の果たす役割は、どうあるべきなのか。今回のアンケート結果は一つの提示にしかすぎない。世代間のギャップを超えて、社会全体が次のステップへ踏み出す時が訪れているのではないだろうか。